ナイトメア



「夢を見ていました・・・。」

「そう・・・。」

「夢の中で貴方は一人の男と恋に落ちる。」

「それは・・・貴方?」

 ディズィーは小さく笑みを浮かべて、テスタメントに問いかける。 それに全く動じる事なくテスタメントは答えた。

「いえ・・・、かつて私達と戦った聖騎士団の騎士、 そのうちの一人のようでした。 そして貴方は、その者の子を宿す。 人とギア。双方の血を継いだその子は、 やがて異なる二つの種族の未来を結ぶ架け橋となってゆく。 貴方は彼らを懸命に支え、私はあなた方を守る盾となった。」

 淡々と語るテスタメントの言葉を黙って聞いていたディズィーだったが 次第に見る見る顔が強張っていった。
「フフ・・・。私達と人間とが・・・共存・・・だと?」

 ディズィーは怒りに体を震わせながら、叫んだ。
「ふざけた事を言うなっ! 我らを兵器として利用しようと企み、都合が悪くなった途端に滅ぼそうとした! そんな奴らと、どうして我らが共存などできるのかっ!!」

 いつもの穏やかな彼女からは想像も出来ないほどの怒りをあらわにするディズィー。 今にもテスタメントを引き裂かんばかりの怒気に混じって 忠臣と信じていた男の思いがけない言葉に、わずかな戸惑いも感じられた。

「これは・・・ 恐らく私が人として在った時の記憶が干渉を及ぼしたのでしょう。 しかし・・・信じて下さい。 私の命はお母上・・・ジャスティス様と、その遺児である貴方・・・ ディズィー様に捧げております。 そしてジャスティス様を亡き者にした裏切り者、背徳の炎と 人類を憎む気持ちは貴方と等しくしております。」

 テスタメントは、ディズィーの荒ぶる心を沈めるように、優しく、静かに話しかけた。 それを聞いたディズィーは、彼の言葉に偽りが無いことをその身で感じ取り、徐々に気持ちを落ち着けていった。


「ならば、なぜ先ほどのような話をしたのです?」

「分かりません・・・」

「困ったものですね。これから聖騎士たちと戦いを始めようと言うのに・・・」

「私は・・・。」
 そう言ってテスタメントはディズィーから一歩後ずさり、地に膝を付けた。 顔は俯いたまま、テスタメントは言葉を続けた。

「ディズィー様、どうかこの私に先陣をお任せ願いたい。 聖騎士達を次々に葬り去り、それを持って貴方の忠誠の証とさせて頂く所存です」

 顔をあげ、主人をまっすぐに見つめるテスタメント。その瞳は紅く、妖しく揺らめいていた。

「・・・。期待していますよ、テスタメント。」

「はっ・・・。」

それは誰が見せた夢だったのか。 あるいは誰が持ち得た夢だったろうか。 いずれにせよ、もう過去に戻る事は出来ない。 もう夢を見ることは許されない。 人とギアとの百年に渡る戦いは、その最終局面を迎えつつあった。



-end-


15年作。ドラマCDでは亡きジャスティスの遺児と、その保護者兼部下という大変好みな設定。
そして未だにこの二人が好きです。カップルとして。
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